今回のブログでは、アメリカのトランプ大統領が2025年7月7日(日本時間)に日本に関税を通告した書簡を題材に、英文の難易度と使われている英語表現について、詳しく解説していきます。
英会話に役立つフレーズや説得力のある表現を身につけたい英語学習者に、ピッタリの内容ですので、ぜひ最後までお読みくださいね!
いや~、今回は書いていて本当に楽しかったです。
と言うのもこの書簡、一般的な外交文書とは全然違うんですよ。
一般的な外交文書は、堅苦しい英語で書かれていますが、今回取り上げる書簡には、英検3級~準2級程度の語彙が多用されています。
それだけではなく、トランプ流交渉術が見え隠れする英語表現が使われていて、まるでトランプ大統領の演説を聞いているような印象があります。
「この表現、単なる強調かと思ったら、実はこういうメッセージがこめられていたのか!」といった気づきが得られたら、とても嬉しいです。
※このブログは英語学習を目的としたものであり、私は政治的に中立の立場です。
トランプ関税書簡の概要
この書簡は、2025年7月にアメリカのトランプ大統領から日本の首相に宛てて送られたものです。
その内容は、日本の貿易政策への強い不満と、それに対する対抗措置として25%の関税を課すことを通告したものでした。
交渉の余地はまだあるとしながらも、報復措置をとればそれ相応の対応をすると牽制もしています。
この概要を踏まえておくと、これから先の内容がより深く理解できると思います。
【教材】書簡全文と日本語訳
このブログを執筆した時点では、書簡(英語)の全文が掲載されているウェブサイトを見つけることができなかったので、私が書き起こしました。
誤字脱字には注意していますが、もし見つけたらご容赦ください。
日本語はロイターの訳を使用します。

書簡の英語難易度検証
これまで私のブログでは、トランプ大統領の主要なスピーチで使われている語彙や文法を分析し、全体の英語の難易度を解説してきました。
さて、今回の書簡の英語難易度はどうでしょうか?
難易度検証には、毎度おなじみの可読性診断ツール「リーダビリティ・テスト(Readability Test)」を使用しました。
「リーダビリティ・テスト」について詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。

ちなみにこのブログの執筆時点で最新の記事では、トランプ大統領がイランの核施設攻撃を指示した際に行った演説の英語レベルを分析しています。ご興味があれば、そちらもあわせて御覧ください。

可読性(リーダビリティ)検証
それでは早速、リーダビリティ・テストの検証結果を見ていきましょう。
検証結果は「アメリカの17~18歳が理解できるレベル」
大まかに言ってCEFR指標ではC1 、英検では準1級~1級です。
私がこれまで検証してきた主要演説と比べると、ダントツに高い難易度。
これにはいくつか理由があると思いますが、1番の理由はこれが「文書」だからです。
英語は、話し言葉よりも書き言葉のほうが丁寧でかしこまった表現になります。
中でも外交文書では、より形式ばった文体や難しい語彙語彙が用いられるため、英語の難易度も高くなります。
語彙の難易度(CEFR・英検レベル)
次に書簡で使われている語彙のレベルを見ていきましょう。
語彙の難易度判定には、CEFRという指標で語彙のレベルを判別してくれるVocab Kitchenを使いました。上の画像は判定結果のスクショです。
判定結果を英検レベルに照らしあわせて分析してみました。(英検レベルはおおよその目安です。)
A1レベル(英検3級):59%
A2レベル(準2級):9%
B1レベル(2級):10%
B2レベル(準1級):11%
C1レベル(1級):3%
C2レベル(1級より高度):2%
英検3級レベルの語彙が約6割使われている、ということがこの分析でわかります。
それなのになぜ、リーダビリティ・テストで高難易度と判定されているのでしょうか?
それは、書簡のところどころで複雑な文法や文体が使われているからです。
つまり、単語の意味を知っているだけでは理解するのが難しい文章がある、ということなんです。
難しい英文の分析
ここから、難易度を上げている2つの文章について詳しく解説していきます。
最初はこちらの英文です。
We have had years to discuss our Trading Relationship with Japan, and have concluded that we must move away from these longterm, and very persistent, Trade Deficits engendered by Japan’s Tariff, and Non Tariff, Policies and Trade Barriers.
われわれは長年、日本との貿易関係について議論してきましたが、日本側の関税および非関税政策、さらには貿易障壁に起因するこれらの長期的で非常に持続的な貿易赤字から脱却する必要があるとの結論に至りました。
読み方を練習したい人向けに、音声を用意しました。
ゆっくりバージョン
ナチュラルスピード
この英文が難しい理由①:単語数が多い
この文章が難しい理由の1つは、単語数が多いこと。
なんと41単語もあります。多すぎ。
だから読むのにちょっと時間がかかります。
この英文が難しい理由②:カンマ(,)の位置
文中の「very persistent, Trade Deficit」の部分ですが、カンマは通常この位置に入れません。
カンマの用法はいろいろありますが、通常は意味が切れるところに入れます。
persistentはTrade Deficitを修飾しているので、本来なら「persistent Trade Deficit」でワンセット。
カンマは入れないはずなのに、あえて入れている。
めちゃくちゃ紛らわしい。
でもこの位置に入れることで、トランプ大統領が話しているのをそのまま書き取ったような印象を与えます。
たぶん、それが狙いなのではないかと思います。
この英文が難しい理由③:複雑な名詞句
最後は「Japan’s Tariff, and Non Tariff, Policies and Trade Barriers」という名詞句です。
この部分は、「Tariff」と「Non-Tariff」が「Policies」を修飾し、「Trade Barriers」は独立した名詞句が並列する構造になっています。
つまり、本当は「Tariff Policies, Non-Tariff Policies, Trade Barriers」となるわけです。
しかし、カンマ(,)の置き方のせいで、そうとはすぐに理解できません。
どうしてこんな書き方をするかと言うと、文法の正確さよりも強いメッセージを伝えることを優先しているからです。
まるで大統領本人が言ったことをそのまま書き取ったような感じですね。
実際トランプ大統領は、SNS投稿やスピーチで、文法的な正確さよりもインパクトを重視した言い方を好んで使っています。
例えば、短い文を連続させたり、強調するためにカンマを多用したり、大文字を多用したり。
全部大文字のSNS投稿も見たことがありますが、まるで怒鳴っているみたいで、びっくりした記憶があります。
この英文が難しい理由④:結論までが長い
次は、別の文章を見てみましょう。
If for any reason you decide to raise your Tariffs, then, whatever the number you choose to raise them by, will be added onto the 25% that we charge.
日本が何らかの理由で関税を引き上げることを決めた場合、その引き上げ分はわれわれの課す25%の関税に上乗せされます。
読み方を練習したい人向けに、音声をご用意しました。
ゆっくりバージョン
ナチュラルスピード
この文章は次のような構造になっています。
If節(条件節): If for any reason you decide to raise your Tariffs
主語になる部分: whatever the number you choose to raise them by
述語になる部分:will be added
補足情報:onto the 25% that we charge
ifで始まる条件の部分と主語にあたる部分が長すぎ・・・。
「関税を上げたら、その分を全部上乗せするよ」というシンプルなことを言っているのですが、「結局どうなるのか?」という結論(述語になる部分+補足情報)にたどり着くまでに時間がかかるので、ちょっと難しい文章になっています。
これも、話し言葉に近い書き方です。
実際音読してみると、トランプ大統領の演説をシャドーイングしているような気分になってきました(笑)。
書簡で使われている戦略的な英語表現
この書簡は、内容はともかく、外交文書としては以下の点でものすごくユニークなんです。
- カンマや大文字が多用されている。
- 婉曲的な言い方ではなく、力強くインパクトのある文章で書かれている。
- 感情的な副詞・形容詞が多用されている。
- 強い言葉で具体的に日本を批判している。
- 感情的なスピーチ文体で書かれている。
このような書き方について、ネット上ではいろいろな批判が繰り広げられ、トランプ大統領の知性を疑問視するかのような発言も見られます。
英語講師の視点から見ると、これらはすべて意図して書かれてることは間違いありません。
めちゃくちゃ作りこまれてます。
戦略的な英語表現の例
それでは、戦略的な英語表現を具体的にみていきましょう。
この書簡には、単に単語の意味を知っているだけではわかりにくい表現がたくさんあるので、読むときは少し注意が必要です。
英語学習者だけではなく、英語で交渉をするビジネスパーソンにとっても、とても勉強になる教材だと思います。
ここからは、私が重要だと思った表現のみを取り上げているので、各カテゴリーに当てはまる全ての英語表現を網羅しているわけではありません。ご了承ください。
1. 具体的に批判する表現
最初は、ダイレクトに具体的な名詞句を出すことで、「今回の措置の責任は日本にある」ことを明確にしている表現をご紹介します。
Japan’s Tariff, and Non Tariff, Policies and Trade Barriers
日本側の関税および非関税政策、さらには貿易障壁
Japan’s Tariff, and Non Tariff, Policies and Trade Barriers
日本側の関税および非関税政策、さらには貿易障壁
eliminate the Trade Deficit disparity
貿易赤字の格差を是正する
unsustainable Trade Deficits against the United States
持続不可能な対米貿易赤字
書簡を読んでいると、「日本、ものすごい悪いやつやん!」という気分になってきました(笑)
2. 交渉の前提条件をつくる表現
トランプ大統領はこの書簡で、提示されている関税率については、まだ交渉の余地が残っていることを示しています。
それがわかる具体的な表現を見てみましょう。
最初はIfを使って条件を設定する表現です。
【If条件節(もし~なら)を使った表現】
If you wish to open your heretofore closed Trading Markets…
→ もし貴国が、これまで閉ざされていた貿易市場を米国に開放し…
次は、「perhaps(おそらく)」や「consider(検討する)」など、あえて断定しない語彙を使った表現です。
we will, perhaps, consider an adjustment to this letter.
本書簡の内容について調整することも検討いたします。
最後は「助動詞+受動態」を使った表現です。
These Tariffs may be modified, upward or downward, depending on our relationship…
これらの関税は、両国の関係に応じて上方にも下方にも修正され得ます
「will be」ではなく「may be」にすることで、「変更される可能性はある」と交渉相手に希望を持たせています。
ただし、「upward or downward(上方にも下方にも)」になるかは「depending on our relationship(両国の関係に応じて)」と条件づけ、あくまでも主導権はアメリカにあるとはっきり伝えています。
3. 同じ言葉の繰り返し
トランプ大統領の書簡は、まるでスピーチを聞いているようだと先にお伝えしました。
そのような印象を与える理由の1つに、「同じ言葉の繰り返し」があります。
具体例を見てみましょう。
Tariff, and Non Tariff, Policies and Trade Barriers
関税、非関税政策および貿易障壁
Trade Deficit… Trade Deficits… Trade Deficit disparity
貿易赤字、貿易赤字の格差
なんと、「Tariff(関税)」という語は10回以上も使われています。
そして、「Trade Deficit(貿易赤字)」「fair(公正)」「balanced(均衡)」「reciprocal(互恵的)」も繰り返し使われています。
スピーチではよく、ある言葉の重要性を強調するために、その単語を何度も繰り返すことがありますが、それが今回の書簡をスピーチっぽい印象にしているんですね。
4. 特に面白いと思った表現:only 25%
only 25%
わずか25%の関税
「only」を使うことで「(日本に課す関税は、制裁措置としては軽い)わずか25%だよ」と言っているように見えます。
しかし実際は、「本当はもっと高くできるけど、あえてこれだけにとどめているんだよ」と言って、優位に交渉できるように圧力をかけているんです。
これも、トランプ大統領らしい表現だと思います。
英会話に活かせる2つのポイント
この書簡に限らず、演説原稿やインタビュー記事などもそうですが、単に単語や文法を分析するのではなく、「自分が話すときにどう使えるか?」という視点で読んでいくと、英会話力アップにつながります。
今回のトランプ大統領の関税書簡には、英会話で使える重要なポイントがたくさん含まれていますが、今回は2点お伝えします。
1. シンプルな単語を使う
この書簡は外交文書にもかかわらず、難しい専門用語よりも CEFR A1~A2(英検3〜準2級)レベルの単語が多く使われています。
それなのに、伝わってくるメッセージは非常に力強い(圧力が強い)ですよね。
これは言い変えれば、「複雑な単語を使わなくても、説得力のある話し方ができる」ということでもあります。
シンプルな言い方は幼稚な印象を与えると思うかもしれませんが、それは大きな誤解です。
2. 感情を表現する副詞や形容詞を使う
この書簡には、「only 25%(たったの25%)」「great Country(偉大な国)」「major threat(深刻な脅威)」「very persistent(非常に長引く)」など、感情を表現する副詞や形容詞がたくさん使われています。
どれも難しい単語ではありませんが、トランプ大統領の感情が伝わってきますね。
英語では、「どんなトーンで伝えるか」が会話の印象を左右するので、普段の英会話でも、こうした感情を表現する語彙を使ってみましょう。
たとえば、「It’s a problem.(それは問題です)」を、「It’s a major problem.(重大な問題)」やIt’s a small problem(些細な問題)と言ってみる。
「That’s interesting.(面白いね)」を、「That’s incredibly interesting!(めちゃくちゃ面白いね!)」 と言ってみる。
書簡の中から、感情を表現する副詞や形容詞を選んで、日常会話でどのように使えるのか英作文してみましょう。
作った文章は、ぜひ英会話レッスンなどで使ってみてくださいね。
おわりに
いかがでしたでしょうか?
時事英語はそれ自体が生きた教材なので、英会話力アップのために、積極的に学んでほしいと思います。
でも、文法や単語の理解のみで終わってしまうと、非常にもったいない!
「なぜこの単語やフレーズを使っているのか」ということを考えながら読むことで、「言いたいことを相手に伝えるだけの英語」が、「相手の反応を想定しながら、自分の立場や目的に合わせて伝え方を工夫する英語」に変化していきますよ。
今回ご紹介したトランプ大統領の関税通告書簡には、シンプルな単語で強いメッセージを伝えるテクニックや、相手に配慮する表現、感情を伝える語彙など、英会話にもそのまま応用できるヒントがたくさん詰まっています。
英語を「読む」力だけでなく、「話す」「書く」力につなげていくためにも、こうした視点で英文に触れる習慣をぜひ取り入れてみてください。
「この言い回しなら自分も使えそうだ」と感じたフレーズをピックアップして、英会話レッスンや実際の会話で実践練習してみてくださいね。
Kyanbridge Englishでは、時事英語も含め、一人ひとりのニーズに合わせてカスタマイズした英会話レッスンを行っています。
ぜひお気軽にお問い合わせください!
