国際機関の英語レポートや企業の報告書などを読んで、「堅苦しくて、読み進めるのが大変だな」と感じたことはありませんか?
1文が長くて主語がわかりにくかったり、複雑で高度な文法が使われていたり、専門用語や抽象名詞がこれでもか!というくらい詰めこまれていたり。
実はその“読みにくさ”には、次のような理由があるんです。
- 発言者の立場をあいまいにして、中立性を保つため。
- 内容が組織として合意されていることを示すため。
- 権威を表すため。
このブログでは、「自分の英作文をもう一段上のレベルに引き上げたい!」という英語学習者に向けて、国際機関の報告書などに使われるフォーマルで中立的な英語を分析していきます。
英検やIELTSなどの英語資格試験対策にもおすすめの内容なので、ぜひ最後までお付き合いください!
今回使う教材は、こちら。「児童労働白書2025」の英語版(オリジナル)と日本語仮訳の2つです。
Executive Summaryとは
まず、「Executive Summary(エグゼクティブ・サマリー)」という言葉の意味を整理しておきましょう。
「Executive」と聞くと「エグゼクティブ・会社の重役」という訳を思い浮かべるのではないでしょうか?
長い報告書全体を読む時間がないエグゼクティブでも、ここを読めば主張・目的・結論を理解できるように書かれたものが「Executive Summary」です。
ここが、学術論文の「abstract(アブストラクト、要旨)」とは違うところです。
【分析】「児童労働白書2025」Executive Summary:フォーマル英語の特徴
それではここから、「児童労働白書2025」のExecutive Summaryについて、詳しく見ていきましょう。
冒頭の文章構成
まず最初に、 Executive Summaryの冒頭文章を見てみましょう。
In 2015, the world made a promise to end child labour by 2025. That timeline has now come to an end. But child labour has not.
2015年、世界は「2025年までに児童労働を撲滅する」と決議した。期限は訪れたが、児童労働は今も存在する。
上の文章は、短い文章の組み合わせになっています。
このように1文をあえて短くすることで、報告書の重要なメッセージが一目でわかるようにしているんですね。
非常に力強いメッセージを感じます。
最後の文章「But child labour has not.」は、正確には「But child labour has not come to an end.
です。
あえてnotで終わらせることで、前文の 「That timeline has now come to an end.(期限は終わった)」との対比を強調し、「児童労働は終わっていない」というメッセージを力強く伝える構造となっています。
シンプルな一文なのに、すごく作りこまれています。
抽象名詞が使われる
公的な文書では、個人の意見ではなく「みんなが認識していること」という印象を与える目的で、抽象名詞を主語に使うケースが多々あります。
抽象名詞とは、物理的な形を持たない名詞のことです。考えや性質・感情・動作などを表す名詞がこれにあたります。
The elimination of child labour remains an unfinished task.
児童労働の撤廃に向けた取り組みにいまだ終わりは見えない。
主語:The elimination of child labour
受動態が使われる
国際機関の報告書では、「社会全体の責務」としてのメッセージを伝えるために、「誰が行うのか」ということを特定しない受動態がよく使われます。
Child labour concerns must be systematically mainstreamed into economic and social policy planning.
児童労働への対応を、経済的・社会的な政策立案において体系的に主流化する必要がある。
上の文章では、「Governments must mainstream…」 という能動態で表現することもできますが、「どこの国の政府が主体的に動くべきか」という議論を避けるためにも、このような文法構造をとっています。
日常英会話との違い
日常英会話では「誰が」をはっきりさせたほうが、わかりやすいですよね。
例えばこんなふうに。
We decided to expand our project to Africa.
私たちはアフリカに事業を拡大することを決めました。
しかし公的文書では、主語をはっきりさせない方が、フォーマルで権威的なトーンになるのです。
An expansion of the project to Africa has been decided.
アフリカへの事業拡大が決定されました。
行動の主体があいまいなので、官僚っぽくないですか?(笑)
フォーマルで権威ある英語を書くための3つのコツ
ここでは、国際機関の文書で使われているような、フォーマルな文体の英文を書くための3つのポイントをご紹介します。
アカデミックライティングや、英検、IELTS、Cambridge English Qualifications(ケンブリッジ英検)などの資格試験対策にも役立つので、ぜひ意識してみてくださいね。
1. 動詞を名詞化する
フォーマルな文体の英文を書く1つ目のコツは、「動詞を名詞化すること」です。
そうすることで、個人の意見ではなく「共通認識」という印象を与えることができます。
「We must reduce child labour.」をこう書くとGood!
「動詞の名詞形」と「動名詞」は全く別のものですので、混同しないように!
動詞の名詞形:動詞に接尾辞をつけて名詞そのものに変化させたもの。
- create → creation(創造)
- decide → decision(決定
動名詞:動詞の -ing 形 が名詞のように使われるもの。
- reading(読むこと)
- studying(勉強すること)
2.「誰が」を特定しない受動態を使う
フォーマルな文体の英文を書く2つ目のコツは、「誰が行うのか」ということを特定しない受動態を使うこと」です。
こうすることで、「行為者」ではなく「行為そのもの」にフォーカスが移るので、より中立的で客観的な印象を与えることができます。
「We have launched a new policy.」をこう書くとGood!
3.主語を「I(私)」にしない
フォーマルな文体の英文を書く3つ目のコツは、「I(私)を主語にしないこと」です。
「I think」のような個人的な意見としての表現を避け、「みんなで取り組む課題」というような、包括的なメッセージを伝える書き方にしましょう。
「I think we should take action to end child labour.」はこう書くとGood!
「I believe education is the best way to reduce poverty.」はこう書くとGood!
まとめ
フォーマルな英語と言うと、感情を排除した冷たい言い方に聞こえるかもしれません。
しかし実は、客観的で中立な立場でメッセージを伝えることができるという特徴があります。
今回ご紹介したような国際機関の報告書を読むことで、中立性を保ちながら洗練されたフォーマルな文章を構成する力を鍛えることができます。
ぜひ興味のある国際的なレポートのExecutive Summaryを読んで、上質で格式の高い英語にふれてみてくださいね。
フォーマルな英語表現は、読むだけでなく、実際に使ってみることで身につきます。
私のレッスンでは、一人ひとりの目的や関心に合わせた、完全オーダーメードの学習を行っていますので、今回のように、国際機関の報告書などを題材にしたレッスンもご希望に応じて取り入れられます。
ご興味のある方は、ぜひ無料相談・体験レッスンをご検討ください!
